んー。うん。
 ………ぽつんと、ね。云ったのを。聞いちまったの。
 うーん…。だから、その若くて偉いセンセが、さ。
 宙佐?
 うん。その先生。
 マスターだから白状しちゃうけど、まぁ…盗み聞き…だけど書くつもりとかじゃないんだよ!や!そもそも、そんなんじゃないのよ!違うんだって!
 違うんだよホント。ホントさ。
 …オレなんかさ。偉そなこと云ってみてもね。カッコつけても。パパラッチと変わんないんだ。報道カンケー、なんて、てめぇで云う奴はね、ほとんどそう。マスターも騙されんようにね。記者とかナントカ、そんな奴にガッコのことしゃべっちゃいかんよ。絶対だよ。取材をもとに…なんつって、平気ででっち上げるんだから。そんないい加減な記事であることないこと云われたらさ、可哀想だよ、子どもら。
 あそこはちゃんとしたとこだと思うよ。そりゃ軍の施設だからそうだけども、そうじゃなくてもさ、ちゃんとしたトコだ。だから引っ掻き回しちゃいかん。可哀想だよ、子どもがね。
 先生たちも。
 …今日はさ、ラッキーだったんだ。ちゃんとした取材で。ピンチヒッターだったけど、久しぶりに張り切ってね。
 でも、そういう根性が染み付いちまってんのかな、オレ。そのセンセの取材じゃなかったよ。だから別に会おうとも見ようとも考えてなかった。それでもね、どっかで思ってたのかもしれんね。なんか記事になりそうなこと拾えないか、ってね。
 ガッコに籠もっちゃってるからネタなくて、今はどこでも一時期ほど取り上げないけど、ホントは書きたくてたまんないんだよ、どこも。書きゃ売れるからね。書いたら、金になるし、名前も売れる。ドル箱なんだよ。
 ちゃんとした仕事だー、て、張り切ってただけのつもりだった。オレはきちんとした記者なんだぞって、ね。で、そんなこと、意識してなかったつもりだけど。いやらしいハイエナ根性が抜けないんだろうね。人のプライベート覗き見して盗み聞きして…。
 だから、こそこそ人の話、隠れてうかがったりしちまうんだ。
 やだね。気が付くと自分が…かわいそうで、惨めだね。
 ん? ああ。
 士官学校ってのは、案外綺麗なトコだね。きっちりしてる。オレはああいうの、好きだね。
 なんか、ひと気がないのは不思議だったね。コドモがいっぱいいるんだろう?何しろ、学校だからね。でもホントにコドモが暮らしてんだろうかってくらい、静かで、ひと気がなかった。
 広いからかねぇ?
 ちょうど建物の死角になってるトコだったのかな。ふっと顔上げたら人が居たんでこっちがびっくりした。向こうはオレに気付かなかったみたいだけど。
 別に嗅ぎ回ってたわけじゃないよ、信じてもらえんかもしれんがね。ホントに広いトコだからねぇ…あ、これ、言い訳だったらものすごくベタ。これ、言い訳だったらスッゴイ恥ずかしい奴だよ、オレ。
 トイレ行ってね。うん。教えてもらって。教頭先生?とは云わないのかね。校長さんの…なんつったかな、秘書?違うか?
 ま、なんかそんな。うん。ガッコの…や、軍服の人だったけどもね、若い男で。あー、その人が対応してくれたもんで。なんか、中、案内されながら話聞いてね。や、今思うとはぐらかされてただけなのかもな。
 そーれで…。
 …なんだっけか?
 ああ、そう、トイレね。そう、我慢してて慌てたもんだから、駆け込むときは必死で、すっきりしたら自分が何処に居るのかわかんなくなっちまってさぁ。間抜けだけども。迷っちゃったの。
 はは、緊張してねえ。コーヒーを持って来てくれたんだけど、あ、その若い男がね、自分で。なんかだだっ広い、がらんとした所へ通されて。多分、…食堂?
 そんで、コーヒーが。
 やっぱ秘書だったのかね。
 …ひょっとして、まかないの人だったり?
 …それはちょっとショックだな…一応…ちゃんとした取材だったのに…。
 …ああ…うん…そう…。そうだけど…。
 そうかなぁ…。
 ええと…うん。それで、オレ、がぶがぶ飲んで、何しろ緊張してるからね。
 それが!
 なくなるとすぐに次を持って来るんだ、その男。おかわりは、ともなんとも訊かないで、とにかくすぐに次を。カップ変えてね。飲まないのも失礼かと思っちゃって…何しろ久しぶりのちゃんとした仕事だし、ちゃんと取材して、いい記事書かなけりゃって気負ってるとこへ、軍服の人と話すなんて初めてでねぇ。
 ホント、緊張して。
 それでまぁ、はは。限界まで我慢したんだけども、結局はトイレに行った。
 そんで迷った、と。
 ……何考えてたのかな、あのヒト。
 …パパラッチを追い払いたいからって、コーヒー?
 でもそれで、別についてきたわけじゃない。野放しにして…危ないと思わなかったのかね。
 信用…してくれたのかねぇ…。

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わたし、『銀河の荒鷲シーフォート』のファンサイトやってます!!(嘘っぽい)

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