校長執務室で怒鳴り声がした。いつものことだ。
ハッチがすらりと開き、宙尉の制服が出て来る。いつものことだ。
「トリヴァーッ!!逃げるのかキサマ!!」
声が追いかけてくる。いつものことだ。
「イエッサー」
軽い足取りで出て来た宙尉は、短い返答を叫び、ひょいっと首をかしげた。
私の目前で。
執務室を振り返りもしないまま。
「ぎやあっ!!」
その一瞬後、私は、いわく云い難い悲鳴をあげた。驚いたので。
しかもかなり痛かったので。
宙尉は目を丸くして、私の前で止まっている。
「…ハロー、ミスタ・ソーン。ご機嫌、…よろしくないでしょうね」
「ジェフッ、すまん…ッ…」
真っ赤な顔で湯気をふいていたのだろう校長が、今は真っ青になって執務室を出て来た。
慌てて私に駆け寄る。
「ちっ、血が出てるッ!」
青い校長は泣きそうな顔で、私の額へ指を伸ばした。
「そりゃ出るでしょうよ、血くらい」
対する宙尉は、ケロリとそう云い放った。
シーフォートは涙をためて伸ばした震える指先を、私の傷に触れる寸前で、ぎゅっと握り締めて止めた。心配と後悔に潤んでいた瞳に、今度は剣呑な光をぎらつかせて、トリヴァーを振り返る。
「きさま…ッ」
憎しみを込めた鋭い声。トリヴァーはそれにひるみもせず、床を指差した。
「あんなもんぶつかったら、誰だって、血くらい出るでしょうよ」
あきれた口調だ。
そしてちょっと沈黙し、何事かを考えたように見えた。
「サー」
とって付けたような呼称。
「電気スタンドなんか、ぶつけ、られた、ら」
何かを含ませるように区切った言葉が、みるみるシーフォートを赤くする。
トリヴァーは肩をすくめた。私を見る。
「気の毒に、ミスタ・ソーン」
「…ありがとう」
思わず礼を云ってしまった。途端、シーフォートが金切り声で叫ぶ。
「誰のせいだと思ってるんだトリヴァーッ!!」
「投げた人のせいでしょう、サー?」
「そ…っ、だ、そん、な、わたっ、わたしは…ッ!」
「ミスタ・ソーンに謝った方が良いのではありませんか、サー?」
「きッ、きみなんかに云われる筋合いじゃないッ。大体きみが避けるからジェフに当たったんだバカ!」
「避けなければ私が流血の惨事です。大体なんで、あんなものを投げるんですか、貴方は。私に当たったらどうしてくれたんですか、サー」
「きさまはいつでも避けるだろうがッ」
「イエス・サー。避けました。では貴方は、私が避けることを見越した上で投げたんですね」
シーフォートは言葉につまり、頬をひきつらせる。
「つまりミスタ・ソーンに当てるつもりだった、と」
「ちっ違…ッ!!」
シーフォートは慌てて首を、ぶんぶん音がするくらい横に振った。トリヴァーはまた肩をすくめ、私を見た。心底、気の毒そうに。
「早く医務室へ行った方がいいですよ、ミスタ・ソーン」
「…ありがとう」
また、思わず礼。
トリヴァーはにっこりした。
「どういたしまして。では、私はこれで」
必死に弁解しつつ、泣きそうな顔で謝罪を重ねる校長と取り残される。
「違うんだ、ジェフ!信じてくれ!わたしは決して、そんな、きみに物をぶつけようなんてそんな、そんなこと…っ…!」
「わかっています…大丈夫ですから、私は…」
「信じてくれ!誓ってきみにそんなことしようだなんて…!」
私は、できるだけで優しい顔と声を作った。――――額からだらだらと血を流しながら。それでも、罪悪感でいっぱいの校長をなだめる効果はあったらしい。
「私は平気です、サー。わかっていますから、大丈夫ですよ」
「ジェフ…」
「しかし危険なので、今後はあまり、物を投げないようになさって下さい、サー」
校長は思い詰めた眼で、こっくりうなずいた。
「わかった。きみには投げない」
…そうじゃなくて…。
私はこっそり嘆息しつつ、それ以上話すのはもうやめた。無駄だ。
「本当にすまなかった」
「…いいえ。とりあえず私は医務室へ行きます」
「そっ、そうだな。早く行ってくれ」
「アイ・アイ・サー。失礼します」
重い足取りで彼の前を辞しながら思う。
誰が悪いんだろう。
通算7度目の流血沙汰だった。
誰が悪いんだろう。
何が発端なのか知らないが、激昂して手当たり次第、デスクの物を副官に投げ付ける校長。
後ろに目がついているのかと思うくらい、すべて的確に避ける、その副官。
――――巻き込まれて避けきれない、にぶい私が悪いのか。
誰を恨むのも違うようで、私はとにかく、ずきずき痛み出した額に耐えた。
次は巻き込まれないようにしよう。…8度目こそは。
######
「動作や言葉を押さえて、役の心理・感情を表現する内面的で静的な演技」が苦手。
→落ち着き無く動き回り、ぺらぺらしゃべる。
→こんなん出ました。
…ちがうじゃんアタシ…。何を書いてるんだ…。
いやあ、VNがすすまないなーと思ったら、面白いネタを目にし、したらぽこんと浮かんだ。
ハッチがすらりと開き、宙尉の制服が出て来る。いつものことだ。
「トリヴァーッ!!逃げるのかキサマ!!」
声が追いかけてくる。いつものことだ。
「イエッサー」
軽い足取りで出て来た宙尉は、短い返答を叫び、ひょいっと首をかしげた。
私の目前で。
執務室を振り返りもしないまま。
「ぎやあっ!!」
その一瞬後、私は、いわく云い難い悲鳴をあげた。驚いたので。
しかもかなり痛かったので。
宙尉は目を丸くして、私の前で止まっている。
「…ハロー、ミスタ・ソーン。ご機嫌、…よろしくないでしょうね」
「ジェフッ、すまん…ッ…」
真っ赤な顔で湯気をふいていたのだろう校長が、今は真っ青になって執務室を出て来た。
慌てて私に駆け寄る。
「ちっ、血が出てるッ!」
青い校長は泣きそうな顔で、私の額へ指を伸ばした。
「そりゃ出るでしょうよ、血くらい」
対する宙尉は、ケロリとそう云い放った。
シーフォートは涙をためて伸ばした震える指先を、私の傷に触れる寸前で、ぎゅっと握り締めて止めた。心配と後悔に潤んでいた瞳に、今度は剣呑な光をぎらつかせて、トリヴァーを振り返る。
「きさま…ッ」
憎しみを込めた鋭い声。トリヴァーはそれにひるみもせず、床を指差した。
「あんなもんぶつかったら、誰だって、血くらい出るでしょうよ」
あきれた口調だ。
そしてちょっと沈黙し、何事かを考えたように見えた。
「サー」
とって付けたような呼称。
「電気スタンドなんか、ぶつけ、られた、ら」
何かを含ませるように区切った言葉が、みるみるシーフォートを赤くする。
トリヴァーは肩をすくめた。私を見る。
「気の毒に、ミスタ・ソーン」
「…ありがとう」
思わず礼を云ってしまった。途端、シーフォートが金切り声で叫ぶ。
「誰のせいだと思ってるんだトリヴァーッ!!」
「投げた人のせいでしょう、サー?」
「そ…っ、だ、そん、な、わたっ、わたしは…ッ!」
「ミスタ・ソーンに謝った方が良いのではありませんか、サー?」
「きッ、きみなんかに云われる筋合いじゃないッ。大体きみが避けるからジェフに当たったんだバカ!」
「避けなければ私が流血の惨事です。大体なんで、あんなものを投げるんですか、貴方は。私に当たったらどうしてくれたんですか、サー」
「きさまはいつでも避けるだろうがッ」
「イエス・サー。避けました。では貴方は、私が避けることを見越した上で投げたんですね」
シーフォートは言葉につまり、頬をひきつらせる。
「つまりミスタ・ソーンに当てるつもりだった、と」
「ちっ違…ッ!!」
シーフォートは慌てて首を、ぶんぶん音がするくらい横に振った。トリヴァーはまた肩をすくめ、私を見た。心底、気の毒そうに。
「早く医務室へ行った方がいいですよ、ミスタ・ソーン」
「…ありがとう」
また、思わず礼。
トリヴァーはにっこりした。
「どういたしまして。では、私はこれで」
必死に弁解しつつ、泣きそうな顔で謝罪を重ねる校長と取り残される。
「違うんだ、ジェフ!信じてくれ!わたしは決して、そんな、きみに物をぶつけようなんてそんな、そんなこと…っ…!」
「わかっています…大丈夫ですから、私は…」
「信じてくれ!誓ってきみにそんなことしようだなんて…!」
私は、できるだけで優しい顔と声を作った。――――額からだらだらと血を流しながら。それでも、罪悪感でいっぱいの校長をなだめる効果はあったらしい。
「私は平気です、サー。わかっていますから、大丈夫ですよ」
「ジェフ…」
「しかし危険なので、今後はあまり、物を投げないようになさって下さい、サー」
校長は思い詰めた眼で、こっくりうなずいた。
「わかった。きみには投げない」
…そうじゃなくて…。
私はこっそり嘆息しつつ、それ以上話すのはもうやめた。無駄だ。
「本当にすまなかった」
「…いいえ。とりあえず私は医務室へ行きます」
「そっ、そうだな。早く行ってくれ」
「アイ・アイ・サー。失礼します」
重い足取りで彼の前を辞しながら思う。
誰が悪いんだろう。
通算7度目の流血沙汰だった。
誰が悪いんだろう。
何が発端なのか知らないが、激昂して手当たり次第、デスクの物を副官に投げ付ける校長。
後ろに目がついているのかと思うくらい、すべて的確に避ける、その副官。
――――巻き込まれて避けきれない、にぶい私が悪いのか。
誰を恨むのも違うようで、私はとにかく、ずきずき痛み出した額に耐えた。
次は巻き込まれないようにしよう。…8度目こそは。
######
「動作や言葉を押さえて、役の心理・感情を表現する内面的で静的な演技」が苦手。
→落ち着き無く動き回り、ぺらぺらしゃべる。
→こんなん出ました。
…ちがうじゃんアタシ…。何を書いてるんだ…。
いやあ、VNがすすまないなーと思ったら、面白いネタを目にし、したらぽこんと浮かんだ。
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