プライベート・レッスン(抄)
2004年11月4日 荒鷲ネタメモ 規則違反ではない。
――――危うく、膝に乗せていたホロビデオを甲板へ叩き落しかける。
スピーカが声をたてた時、当直士官席で、持ち込んだ私物のそれを眺めていた。もっと正確に言えば読んでいた。それで、一瞬心臓が止まりかけた。
”シーフォート士官候補生並びにタマロフ士官候補生、艦橋への立ち入り許可願います”
長い息を吐き出しつつ思う。「サー」をつけない。彼らは当直が誰であるのか知っているのだ。
壊さずに済んだ機械を慎重に足元へ置く。何も悪いことはしていない。艦内規則に禁止されているわけではない。しかし、明文化されてはいないが後ろめたさを抱かせる種類の行為というものがある。当直中に娯楽用の軽い読み物に目を通すのは、少なくともホルサーにとって、咄嗟に言い訳と確認とを必要とするくらいはその手の逸脱だった。人目につかない物影へ、機械を押し込んだのはそのせいである。
”ヴァークス?”
ハッチの外で先任士官候補生が痺れを切らしている。
「イエス、ミスタ・シーフォート…」
呟いて、<ダーラ>にハッチを開けるよう命じ、ホルサーはさり気なく席を立つ。シーフォートはタマロフを従え、意気込んで艦橋へ乗り込んで来た。ホルサーがなんの用かと問う前にシーフォートは、迎えに立った格好の巨体を押しのけ、さっさと当直士官席に着いた。
「ミスタ・シーフォート…」
「ちょっと貸してくれ」
シーフォートは身を乗り出して食い入るようにディスプレイを睨み、キーを叩き出す。彼が足元のホロビデオに気付きはしまいかと、ホルサーは冷や冷やした。それを気にしつつもなんらかの気配にふと横を向く。タマロフが妙な顔を向け、ホルサーを見ていた。
ホルサーは視線でシーフォートを示す。口の動きだけでなんなのかと問う。タマロフは肩をすくめ、首を横に振る。埒が明かない。
ホルサーは再度、何か夢中になっているシーフォートの背へ呼び掛けた。
「ミ」
「ちょっと黙っていてくれ!」
「ソリー、ミスタ・シーフォート…」
反射で謝罪し、消え入りそうになった語尾の代わりに視線をきつくする。しかしそれも、向けられる先が笑いを堪えるタマロフであれば、険は薄まり矛先も鈍らざるを得ない。八つ当たりでしかないのだ。タマロフはサブスクリーンへ顔を逸らせる。不自然な熱心さで真っ黒なスクリーンを見つめ始めた。
「アレクセイ…」
「なんですか、ヴァクス?」
そうしてタマロフは、今初めてホルサーの存在に気付いたかのようにこちらを向き、そんな声で返事した。「なんでも言いつけて下さい。私はそれを行います」と顔に書いて。
苦々しい。
「アレクセイ…」
「イエス?」
どういうことなのか説明しろと、ホルサーは匂わせている。そんなこと、タマロフにはわかる筈だった。この状況なら誰にでもわかる。
「どうかしたんですか、ヴァクス?」
なのにホルサーを真っ直ぐに見つめてくる見開かれた瞳が、表面上は無邪気に見えて小面憎い。ホルサーは顎でハッチを示した。
「ちょっと付き合ってくれ、アレクセイ」
「は?」
「ミスタ・シーフォートが当直を代わってくれるようだ。体育室へ行こうじゃないか。俺はきみに話がある」
「えっと…なんです?」
タマロフの視線はうろうろと空をさまよい出す。それでとぼけているつもりなのかとホルサーは思う。
「だから体育室へ行こうじゃないか」
「ここじゃ駄目なんですか?」
「二人きりでゆっくり話そうじゃないか」
「いや、だって、でも……ここじゃ駄目なんですか?」
意図せず、声が一段低くなった。
「駄目だ」
「どうし…」
「うるさいぞ、きみたち!」
シーフォートが叫び、タマロフはほっと息を吐く。今度はタマロフが謝った。あからさまに助かったといった風な声音が、ホルサーを不機嫌にする。
「ソリー、ミスタ・シーフォート。ヴァクスが…」
「私たちは邪魔なようですから行きます」
「え、ヴァクス、当直…」
驚き顔のシーフォートが当直席から尻を浮かす。その拍子に、彼の足は何かを蹴った。ホルサーは慌てた。駆け寄ってひざまずく。手を差し伸べる。物陰から蹴り出された機械に伸ばした腕は、阻まれた。
顔を上げられないまま見つめる。袖口まで皺一筋、汚れ一つない上着、そこから覗く細めの手首と、以外に優美な線を持った指、深爪しすぎだと思う。切り揃えられた指先の爪。
それがホルサーを制した。ホルサーは諦め、手を引っ込める……
######
構想当初のキャッチフレーズは確か、「艦橋は二人のために」。
何をしているかと云うと、シーフォートとアレクが候補生室で航法の計算演習かなんか自主的にしてて、どうにも計算が合わなくて(アレクが合っているのだけれど、シーフォートが納得しない)、手持ちのオールマイティ・ホロビデオでは上手に計算できないので艦橋のコンソールへ確かめに行ったら、ヴァクスが当直してた。
という場面でした。
この後、シーフォートは躍起になって計算するんだけど、どうしても合わなくて、なんでかわからなくて苛々して、そしたら<ダーラ>が間違っているところを教えてくれようとするんだけれど、ヴァクスが止めるの。あっさり教えたらシーフォートのためにならないので。
そんで、当直のコンソールのそばに立って、シーフォートの計算を覗き込みながら、シーフォートが自分で間違いに気付くまで、辛抱強く待ってくれるわけ。椅子の背に掌を乗せてさー。シーフォートはディスプレイへおでこがくっつきそうなくらいのめり込んで唸ってるの。
シーフォートは心イライラ汗ダラダラ機嫌急降下なのだけれど、ヴァクスは無表情で厳しいの。あっさり数値の間違いを指摘してくれたら済むのに、どこが違うのか絶対教えてくれないの。正解へ誘導しようとしつつ、ヒントしかくれないの。
人が多勢居た方が面白いので、チーフィーとかヘインズ操艦士も呼ぼうと思ったの。なんとなく集まって来ればいいやと思ったの。彼らは内心面白がりながら、シーフォートを助けてはくれないで、ホルサー先生のスパルタを眺めているのよ。
みたいのを書こうとしたら、ヴァクスがなんでか軽いロマンス・ホロを持ち込んで読んでいたわけで、それがなんか後ろめたいらしくて、見つかりそうになるというのが混ざってわけがわからなくなった(泣)。
なんとなく暇つぶしに読んでいただけで深い意味はないのに、それが人に見られると思うと、急に恥ずかしいらしい。なんかそれが、私は面白くて捨てられなかったのでこんな風になっている。
あと、ヴァクスが床にしゃがみ込んで見上げていて、シーフォートは椅子に座っている姿勢からそれを見下ろすという体勢が書きたかったらしい。
これ、九月から持ってて、結構ちょこちょこ足しているのにちっとも筋が通らないからもう賞味期限切れ。もうだめ。集中力切れ。わあ。悔しい。
私にしては粘った方なので、とても悔しいので、記念に日記に貼っときます(笑)。
私はVNとしてこの手のが好きですが、好きですが、…書けませんのよ矢張り(涙)。
誰かVN書いて。読みたいから。
書いてかいて!!(じたばた)
――――危うく、膝に乗せていたホロビデオを甲板へ叩き落しかける。
スピーカが声をたてた時、当直士官席で、持ち込んだ私物のそれを眺めていた。もっと正確に言えば読んでいた。それで、一瞬心臓が止まりかけた。
”シーフォート士官候補生並びにタマロフ士官候補生、艦橋への立ち入り許可願います”
長い息を吐き出しつつ思う。「サー」をつけない。彼らは当直が誰であるのか知っているのだ。
壊さずに済んだ機械を慎重に足元へ置く。何も悪いことはしていない。艦内規則に禁止されているわけではない。しかし、明文化されてはいないが後ろめたさを抱かせる種類の行為というものがある。当直中に娯楽用の軽い読み物に目を通すのは、少なくともホルサーにとって、咄嗟に言い訳と確認とを必要とするくらいはその手の逸脱だった。人目につかない物影へ、機械を押し込んだのはそのせいである。
”ヴァークス?”
ハッチの外で先任士官候補生が痺れを切らしている。
「イエス、ミスタ・シーフォート…」
呟いて、<ダーラ>にハッチを開けるよう命じ、ホルサーはさり気なく席を立つ。シーフォートはタマロフを従え、意気込んで艦橋へ乗り込んで来た。ホルサーがなんの用かと問う前にシーフォートは、迎えに立った格好の巨体を押しのけ、さっさと当直士官席に着いた。
「ミスタ・シーフォート…」
「ちょっと貸してくれ」
シーフォートは身を乗り出して食い入るようにディスプレイを睨み、キーを叩き出す。彼が足元のホロビデオに気付きはしまいかと、ホルサーは冷や冷やした。それを気にしつつもなんらかの気配にふと横を向く。タマロフが妙な顔を向け、ホルサーを見ていた。
ホルサーは視線でシーフォートを示す。口の動きだけでなんなのかと問う。タマロフは肩をすくめ、首を横に振る。埒が明かない。
ホルサーは再度、何か夢中になっているシーフォートの背へ呼び掛けた。
「ミ」
「ちょっと黙っていてくれ!」
「ソリー、ミスタ・シーフォート…」
反射で謝罪し、消え入りそうになった語尾の代わりに視線をきつくする。しかしそれも、向けられる先が笑いを堪えるタマロフであれば、険は薄まり矛先も鈍らざるを得ない。八つ当たりでしかないのだ。タマロフはサブスクリーンへ顔を逸らせる。不自然な熱心さで真っ黒なスクリーンを見つめ始めた。
「アレクセイ…」
「なんですか、ヴァクス?」
そうしてタマロフは、今初めてホルサーの存在に気付いたかのようにこちらを向き、そんな声で返事した。「なんでも言いつけて下さい。私はそれを行います」と顔に書いて。
苦々しい。
「アレクセイ…」
「イエス?」
どういうことなのか説明しろと、ホルサーは匂わせている。そんなこと、タマロフにはわかる筈だった。この状況なら誰にでもわかる。
「どうかしたんですか、ヴァクス?」
なのにホルサーを真っ直ぐに見つめてくる見開かれた瞳が、表面上は無邪気に見えて小面憎い。ホルサーは顎でハッチを示した。
「ちょっと付き合ってくれ、アレクセイ」
「は?」
「ミスタ・シーフォートが当直を代わってくれるようだ。体育室へ行こうじゃないか。俺はきみに話がある」
「えっと…なんです?」
タマロフの視線はうろうろと空をさまよい出す。それでとぼけているつもりなのかとホルサーは思う。
「だから体育室へ行こうじゃないか」
「ここじゃ駄目なんですか?」
「二人きりでゆっくり話そうじゃないか」
「いや、だって、でも……ここじゃ駄目なんですか?」
意図せず、声が一段低くなった。
「駄目だ」
「どうし…」
「うるさいぞ、きみたち!」
シーフォートが叫び、タマロフはほっと息を吐く。今度はタマロフが謝った。あからさまに助かったといった風な声音が、ホルサーを不機嫌にする。
「ソリー、ミスタ・シーフォート。ヴァクスが…」
「私たちは邪魔なようですから行きます」
「え、ヴァクス、当直…」
驚き顔のシーフォートが当直席から尻を浮かす。その拍子に、彼の足は何かを蹴った。ホルサーは慌てた。駆け寄ってひざまずく。手を差し伸べる。物陰から蹴り出された機械に伸ばした腕は、阻まれた。
顔を上げられないまま見つめる。袖口まで皺一筋、汚れ一つない上着、そこから覗く細めの手首と、以外に優美な線を持った指、深爪しすぎだと思う。切り揃えられた指先の爪。
それがホルサーを制した。ホルサーは諦め、手を引っ込める……
######
構想当初のキャッチフレーズは確か、「艦橋は二人のために」。
何をしているかと云うと、シーフォートとアレクが候補生室で航法の計算演習かなんか自主的にしてて、どうにも計算が合わなくて(アレクが合っているのだけれど、シーフォートが納得しない)、手持ちのオールマイティ・ホロビデオでは上手に計算できないので艦橋のコンソールへ確かめに行ったら、ヴァクスが当直してた。
という場面でした。
この後、シーフォートは躍起になって計算するんだけど、どうしても合わなくて、なんでかわからなくて苛々して、そしたら<ダーラ>が間違っているところを教えてくれようとするんだけれど、ヴァクスが止めるの。あっさり教えたらシーフォートのためにならないので。
そんで、当直のコンソールのそばに立って、シーフォートの計算を覗き込みながら、シーフォートが自分で間違いに気付くまで、辛抱強く待ってくれるわけ。椅子の背に掌を乗せてさー。シーフォートはディスプレイへおでこがくっつきそうなくらいのめり込んで唸ってるの。
シーフォートは心イライラ汗ダラダラ機嫌急降下なのだけれど、ヴァクスは無表情で厳しいの。あっさり数値の間違いを指摘してくれたら済むのに、どこが違うのか絶対教えてくれないの。正解へ誘導しようとしつつ、ヒントしかくれないの。
人が多勢居た方が面白いので、チーフィーとかヘインズ操艦士も呼ぼうと思ったの。なんとなく集まって来ればいいやと思ったの。彼らは内心面白がりながら、シーフォートを助けてはくれないで、ホルサー先生のスパルタを眺めているのよ。
みたいのを書こうとしたら、ヴァクスがなんでか軽いロマンス・ホロを持ち込んで読んでいたわけで、それがなんか後ろめたいらしくて、見つかりそうになるというのが混ざってわけがわからなくなった(泣)。
なんとなく暇つぶしに読んでいただけで深い意味はないのに、それが人に見られると思うと、急に恥ずかしいらしい。なんかそれが、私は面白くて捨てられなかったのでこんな風になっている。
あと、ヴァクスが床にしゃがみ込んで見上げていて、シーフォートは椅子に座っている姿勢からそれを見下ろすという体勢が書きたかったらしい。
これ、九月から持ってて、結構ちょこちょこ足しているのにちっとも筋が通らないからもう賞味期限切れ。もうだめ。集中力切れ。わあ。悔しい。
私にしては粘った方なので、とても悔しいので、記念に日記に貼っときます(笑)。
私はVNとしてこの手のが好きですが、好きですが、…書けませんのよ矢張り(涙)。
誰かVN書いて。読みたいから。
書いてかいて!!(じたばた)
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