ノックに身構える。ハッチはスライドしなかった。ホルサーは立ち上がり、ハッチを開けた。
 部下の水兵四名を従えたヴィシンスキー先任警衛上等兵曹が踵を鳴らして敬礼する。誇張された慇懃さに押し隠そうとした、それでも瞳に浮かぶ反発の色がなんなのか、ホルサーにはわからなかった。
「ミスタ・ホルサー、士官委員会が貴方を召喚しています。マッカンドルーズ機関長の私室までご同行願います、サー」
 ホルサーは困惑した。寝棚を立ったタマロフを振り返る。タマロフはハッチ際まで歩み寄り、ヴィシンスキーを見上げた。
「ミスタ・シーフォートは?」
「…ミスタ・シーフォートは職務を停止され、営倉入りしています」
「なッ、なんだって?!」
 ホルサーとタマロフは同時に叫んだ。タマロフはホルサーを押し退け、ヴィシンスキーに喰ってかかった。
「どういうことだ! 何故、彼がそんな…!」
「ソリー・サー。お答えできません。私は士官委員会からミスタ・ホルサーをお連れせよとの命令を受けただけであります、サー」
「ヴァクス!」
 悲鳴のように名を呼ばれ、ホルサーの頭は一気に冷えた。
「アレクセイ、彼に会って来い。俺は士官委員会に事情を聞いてくる。ミスタ・ヴィシンスキー、彼、ミスタ・シーフォートとは面会不可能だなどとは云わないだろうな?」
 棘だらけの台詞に、厳しかった警衛上等兵曹の瞳が和らぐ。ここにもまた一人、居るのだとわかった。ニコラス・シーフォートの、ホルサーにはわからない何かを信じている人間が。
「ミスタ・シーフォートは我々によって連行されたわけではありません。命令不服従により、自ら営倉入りするのだと仰いました。見張りを立てることを彼自身に命令されたので、形式的に水兵を立てましたがそれだけです。面会は可能です」
 ホルサーは軽く首を横に振り、ハッチをくぐった。タマロフもそれに従う。
「後でな、アレクセイ」
「ええ」
 タマロフは口元を引き締めると、固い決意を思わせる一瞥をホルサーに送り、踵を返した。ホルサーはヴィシンスキーを促した。
「行こうか」
「アイ・アイ・サー」
 間髪入れず返って来た返答に、瞬間、嫉妬の炎が胸を焼いた。何故だと思った。
「…ミスタ・ヴィシンスキー、きみは彼に好意を持っているようだな」
 ヴィシンスキーはちらりとホルサーをうかがった。
「いけませんか」
 挑戦的な声音に驚いく。が、不敬を咎めはしない。大股で歩きつつ、ホルサーは呟いた。
「彼となら心中したいというわけだ」
「死ぬのは御免です。私も、部下も、誰も彼も皆」
 それでも嬉しそうじゃないか――――。
 敗北感がホルサーの足取りを重くさせた。人徳や人望などという曖昧な言葉において誰かに劣ることが、これほど重苦しい気持ちをもたらすものだとはついぞ知らなかった。目尻に滲みかけた涙を拳で拭う。悔しくて泣きたくなる思いを味わう。二度目は本人が目の前に居ない分、応えた。
 三度目はないぞ、ニッキー、と思った。

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「プロット」というのがよく聞くんだけど、わからなくて、前に友人に、具体的にそれはどういうものなのかと教えてもらったら、要するに起承転結のことだと云われて、はぁ…と思ったんだけど。
未だによくわからない。
大雑把に流れを決めて書き留めておくということなのかと理解したけど。
自分じゃできない…。
ところで現在、「天邪鬼なサトリの化け物」撃退方法を考え中。それをオノレの意のままに動かすにはどうしたら良いだろうか。

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