『花と火の帝』上下

2004年1月29日
(隆慶一郎/講談社文庫/1993.9.15)
上巻裏表紙「後水尾天皇は十六歳の若さで即位するが、徳川幕府の圧力で二代将軍秀忠の娘、和子を皇后とすることを余儀なくされる。『鬼の子孫』八瀬童子の流れをくむ岩介ら、?天皇の隠密?とともに、帝は権力に屈せず、自由を求めて、幕府の強大な権力と闘う決意をする……著者の絶筆となった、構想宏大な伝奇ロマン大作。」

鎌倉幕府を倒そうとしたり、理想的天皇親政・建武の新政を行ったりしたことで知られる後醍醐天皇以来、最も苛烈な帝と云われる後水尾天皇。
紫衣事件を契機とした譲位以降の文化活動が馴染ですが、それまでもそれ以降も、水面下で秀忠と戦っていたのですねと思うと涙がこぼれました。
だって隆さんの秀忠、小心で性残忍酷薄、身勝手で小ずるくっていくさ下手で間抜けで遅刻魔で、ひどいんだもーん。すきv(え)
秀忠の手足と云うと、宗矩を頭にした裏柳生ですが、またしてもやられるために出て来たやられ役って感じで、とてもときめきましたv(は?)
宗矩だってそれほど馬鹿じゃないし、云われる程出世欲にまみれてないし、仮にも柳生の人間なので弱いわけじゃないと知っているので、相手が強すぎるのよ仕方が無いわと、負ける様を安心して見ていられると云うか…その屈辱が思い遣られて暗い喜びに胸が震えるって云うか…。
ほとんど主人公の岩介や、京言葉の猿飛佐助、美形過ぎて目立つので忍びに向いてない霧隠才蔵、思い悩んで悩んで悩んで悩んで帝に仕える関白・鷹司信尚さまとか、肩入れしたい人は沢山いるのに、なんでちかっと出て来る宗矩のかわいそうな負け方が気になるのだろう(笑)。
幕府(将軍)vs朝廷(天皇)≒柳生やら雇われ修験者vs岩介と仲間たち、なんですけど、vsのところがサイキック・ウォーズなの、わくわく。超能力戦なのですよ〜。呪力と云った方が良いのかしらん。
テレパシーとか不動金縛りの術とか、テレポーテーションとか超記憶術とか、合間に鉄砲と体術が入って戦うの。しかし誰一人として万能ではないというのが哀しい。そして面白い。
だから哀れ宗矩、諦めが肝心よv

にしても、いいところで終りすぎですー(涙)。ああああああ…おおおおおお…(身もだえ)。
イタコに霊を呼び戻してもらって最後まで書いてもらいたいような気持ちでいっぱいだ。「未完」と書いてあったからそれなりの覚悟はして読んだのですが、こんなところで終っていようとは…おお神よ理不尽です…。未完と知らずに読んだ『死ぬことと見つけたり』と結局は同じくらい叫びました…。
隆さんは経歴がとても素敵なのです。
フランス文学を学びたくて学校に行ってる途中で徴兵されてしまい、終戦後小林秀雄のもとで働き、映画やテレビのシナリオは書いていたものの、師匠・小林秀雄の目に触れるのが怖くてその生存中は小説を書けず、60歳過ぎてデビュー、6年間精力的に時代小説を書いて逝った、という。
夏頃ハマっていた”江戸の鷹”というテレビ時代劇製作に関わっていたと知った時はとても嬉しかったです。こういう偶然ってとても心躍らない?
全編にね、夢枕獏の陰陽師の晴明と相方とのやりとりのような空気がただよっていてこのましいのだなあ。「ゆこう」「ゆこう」そういうことになった。とか、「飲もう」「飲もう」そういうことになった。とか、あれですよあれ(わからんですね、スイマセン)。

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