邂逅(了

2003年11月16日
 川面が光をはじく。犀川べりを馬上にゆったりと行く。花を摘んで抱えていた。
「遊びをせんとや生れけん、戯れせんとや生れけん、遊ぶ子どもの声聞けば、我が身さへこそ動(ゆる)がるれ。遊びに何色何摺り好う給うや。麹塵(きじん)山吹止め摺りに、輪鼓(りうご)輪違(わちがへ)笹結び、纐纈(こうけつ)前垂寄生樹(ほや)の鹿子結、着まほしきやなァ。戯れて、木下(このもと)に眠りたきやなァ」
「…前田家中の方であられるか?」
 花を撒きながら唄っていたら、声を掛けられた。
「お手前、そのような所に転がっておられると危ないぞ。踏むかと思った、馬で」
「それで起き上がりました」
 草むらに笑いながら男が一人、上身を起こしていた。迎えの方か迎えられた方か、どのみち家中の者ではない。家中の者は慶次郎の顔を皆、知っているからである。
 とすると、おのれが関わってはならぬ男である。
「ではな」
「しばし」
 行こうとしたら呼び止められた。
「なんぞ用でも?」
「手前、上杉家中の者ですが、城下を散策いたしたいと思って…」
「散策しておらぬではないか。転がっておった」
「ええ」
 男は立ち上がって袴を払った。六尺近い長身の若者である。立ち姿は凛呼として涼し気で、目鼻立ちも整った美しい若武者だった。
「景勝公の御側小姓か? 一人でふらふら遊び歩いておっても良いのか」
 首を傾げたら苦笑された。
「御側は御側付きですが、小姓にはトウが立ちすぎていてしていただけません。手前、直江兼続と申す。景勝様と前田殿のご了承は取り付けております。しかし案内を断ってしまったのは早計だった。勝手がわからなくてとりあえず川を眺めておりました」
「…………嘘をつけ」
「は? …いや、本当に、川面がきらきらして美しいのでぼんやり…」
「そうでなく」
 慶次郎は手を振った。
「直江兼続と申せば、景勝公の参謀であろう? 主の右腕を騙るなど、見かけによらず悪辣な御仁であるな」
 若者は複雑な表情をしていた。
「何故私が直江兼続でないと思われる?」
「一目瞭然だ。上杉に直江在りと謳われる、武勇の誉れも高い名参謀だぞ。年はな、三十二から五を引け。お手前どう見ても十五、六ではないか。有能で勇敢と云われる直江殿に憧れる気持ちはわかるからそれに免じて許してやるが、名を騙るなど武士として最も恥ずべきことだ。おのれの名を誇れるようにすべきだ」
「はぁ…嬉しいような自信を無くすようなことを申されますな…」
「俺は前田慶次郎利太(とします)。おのれの名になんら恥ずべきことはないから名乗るが、実は又左叔父から上杉の者と接触してはならんと云われておるので、こうしてお手前と話をするのも本当はいかんのだ。まぁしかし、下っ端の若僧を連れ回すくらいなら構わんだろう。ちゃんと名乗れば案内してやらぬこともない」
 慶次郎は悪びれず、馬上に反り返っていた。若者は笑いを噛み殺して答えた。
「ありがとう存じます。お願いいたします。樋口与六と申します」
「与六殿か。さて、何をご覧になりたいか」
「そうですな…」
 若者は軽い動作で馬に乗ると轡を並べた。にこりと笑う。
「では、この城下で御貴殿が最も美しいと思われる場所へ。そこが見とうございます」
 慶次郎はこの返事が気に入った。
「承知した。参ろうか!」
 鞭をくれて駆け出した。並んで駆けながら若者に訊かれた。
「前田殿は、利家殿です。利家殿は何故御貴殿に我らと会うなと申されたのですか?」
「何かされると困ると思ったんだろう」
「何かとは?」
「そうさなぁ…」
 慶次郎はしばし思案した。
「もしお手前が本当に直江兼続殿であったら、抱え上げて川へ放り込んだだろうとか、その手のことだ」
 笑い掛けると、若者は真顔でびっくりしていた。慶次郎は高い笑い声を引いて駆けた。

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「手前、直江兼続と申す」
ってこれが書いてみたかったのよそれだけなのよ、きゃーっ!!!!(興奮)
ぜえはあ。それだけなんです。なんか良くないですか、この名乗り。多分『一夢庵風流記』がそれで名乗っていた筈。めろめろ。
兼続様は愛の戦士なので(え)、姿かたちは若くないとイヤです(きっぱり)。
だめです(真剣)。
そんで見るからに涼しげな男なのですよ。慶次郎は血潮が熱いらしいのでちょうどいいかと。
これはなんでしょうね。
ここのところの妄想の集大成です、多分(笑)。

と、ここまで書いたら3560文字になってしまってのでわざわざ分けてみた(笑)。
日記むきのネタではなかったのかしらね(3000文字におさまらなかった、妄想が;笑)。

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