冒険小説って…

2003年2月3日
1、『黄土の奔流』(生島治朗/光文社文庫/1989年12月20日)
2、『夢なきものの掟』(同上/同上/1990年7月20日)

1の解説作家田中光二氏によれば「本格冒険小説というものは、(中略)たんにバイオレンス、アクション、エロスがあっただけでは冒険小説にはならないのだ。/冒険小説とはある意味ではみごとにパターンの小説であり、同時にあらゆる意味でストイックでなければならない小説なのである。」
”冒険小説が読めない人生なんて……”というエッセイで詳細に規定したことがあるそうで、おお。それは是非一読してみたい。←定義付けとか分類とか好き。自分がレッテル貼られるのは嫌がるクセに(笑)
2の解説文芸評論家井家上隆幸氏によれば「冒険小説は『失われた自己の、あるいはまだ見ぬ自己の復権』であるという。『眼前の敵は国であり謀略組織であり巨大企業であるが、戦う相手は、実は己れに他ならない』という。」
…この定義付けは何かな。まぁ、そうであるらしい。

それで紅真吾シリーズですよ!
1はわかるんだ。フツウに面白かったんだ。真吾は利益よりも信念を大切にするけれど一応表面上それは金儲けの形をとるという、大変カッコイイひと。脇を固める男達も素敵。ヒロイン林朱芳もステキv
そして多分にこういうキャラに魅かれてしまうのはどうにも習性で仕方がないんだけど、葉村宗明。アウトロー。影。皮肉屋。女のように美しい顔の右半面は額から頬にかけて酷い火傷の痕。声は男声的バリトン。ナイフ投げの達人。細身なのに強い、と。
これが普通に面白いというのはね、葉村が真吾と狎れ合わないんだな。常に距離をとっている。畏れても恐れても見くだしてもいない。自分は自分。真吾は真吾という感じ。決別の時が来たらきっぱり別れようとしたし。引き止めたのはどっちかというと真吾だったと思うんだけど、それは真吾の性格だからいいのだ別に。

おかしいのは2なのよーッ!!(大喜び) 2の方がすきーッ!!(万歳)
上海の話なのです。くれないしんごが紅=ホンに、はむらむねあきが葉=ユエに、私的に認識されたわけだが、前半は紅が葉を心配して探す話で、いいのよ。それは紅の習性だからいいのよ。理由なんかなくてもいいのよ。「俺達は友達だ」ってそれでいいのよ。
阿片中毒を脱してからの葉! どうしちゃったんですかーッ?!(爆笑) ダメです…これは…はっきり云ってめちゃくちゃツボに入りました。ある特殊な傾向の女性に比較的うける種類の話になってしまったのではなかろうかと思われます。葉は可愛い人になってしまいました(笑)。
P336L9「とにかく、ぼくはうれしいんです。紅さん。あなたの気持ちがわかって――もう、あなたの許から、黙って姿を消すような真似はしないつもりです」
時と場所をわきまえていなければとてもじゃないけどシラフの男がお友達に云える台詞ではありません(笑)。
P477L2「あなたとぼくは一心同体みたいなもんだ。それを教えてくれたのは、あなたですよ。今さらちがうとは言わせませんよ。あなたがどう拒否しようと、ぼくは勝手についていきますからね」
一度は勝手に「ぼくを放っておいて下さい」とか云っといてナニサマでしょうか。

最後なんか、「あなたとつきあっているうちに、強情なところも、甘くてロマンチックなところも、伝染してしまったんですよ」
「そういうわるい病気をうつした責任はとってもらわなくちゃね」
とかゆってました。これ以上何をどうせいっちゅーんでしょうか(笑)。紅はただ一緒に暮らしていた友達が居なくなったから探しに行って、困っているから助けてやって、ついでに自分の仕事も手伝ってもらったら一石二鳥みたいに思っただけのような気がするんですが(笑)。

あー。エキサイトしました。続きがあと二冊あるので葉がどうなるのか非常に楽しみです。変な読み方しかしなくてゴメン!(笑)
だって、バイオレンスとアクションをストイックでまとめるとエロスが醸し出されるということがわかりましたのよ。失われた友情の復権――それが冒険小説なのですね!(曲解)

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